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トミーのヒット玩具「のほほん族・ひだまりの民」の分解

(株)タカラトミーが発売する癒し系玩具、のほほん族・ひだまりの民。
太陽電池搭載で、蛍光灯ほどの光があれば、いつまでも、いつまでも、首をのんびりユラユラ動かす玩具。
これは、その初期バージョンの品。




のほほん族・ひだまりの民を分解するのだ

長年、僕の机の片隅でユラユラ首を動かしていたひだま君(僕は「ひだま君」と名付けている)だけど。
ちょっと分解させてもらうよ。必ず再生させてあげるからね!ということで分解する。

これが底面。4つのネジを外すと簡単に底蓋が取れる。
ひだまりの民 分解写真
太陽電池の裏側と駆動電子回路基板それとアクチュエータ(駆動機構)であるコイルと磁石が見える。
さらに分解を進める。



まずはアクチュエーター(駆動機構)部分

アクチュエーター部の構造はとても簡単。
固定部に空芯コイルが1つ。可動部(振り子部)に、わりと大きな永久磁石が1つがある。
コイルは空芯(コア無し)で、すごい細いエナメル線を用いる。そして、巻き数は予想以上に多い。
また、コイルは1つだけで、位置検出用のコイル(又は他のセンサ)は見当たらない。つまり、このコイル1つで駆動と位置検出の両方を兼ねている。

ちなみに、上左写真の青いリード線は、駆動回路解析調査のため、僕が取り付けたものだ。

胴体部分を更に分解。
コイルと磁石が剥き出しになった。


左写真:頭部分を拡大。振り子運動の支点(金属の角柱)が見える。
右写真:支点受けが見える(金属バー)。

太陽電池の小さな電力でも、十分に頭を振らせるには、軸受け部の摩擦を最小限に抑える必要がある。
この支点(金属の角柱)と金属(鋼線)による軸受けの構造が機構部分の重要なアイデアの1つなのだと思う。
これにより、簡単な構造で、低摩擦と信頼性(耐久性)を実現している。

それと、もう1つ面白い特徴は、コイル設置位置が、振り子の重心軸から少しずれている点だ。
この意図的に偏った位置にコイルを取り付けているところも、大きなポイントなのだろう。
こうすることにより、起動(初期揺動)をスムースにしているのだろう。たぶん。




次に駆動電子回路部分を取り出す

太陽電池と駆動回路基板を筐体から取り出す。
太陽電池は4セル直列型。開放電圧は室内蛍光灯環境で2.6V程度である。
ひだまりの民 基板写真

基板を拡大。

C面には大型ケミコン(1000uF)と小型ケミコン2個、それとトランジスタ2石が主な部品。(上左写真)
S面にはエポキシ材で固められたICチップが搭載されている。(上右写真)

トランジスタ2石で、太陽電池の電圧を1000uFの電解コンデンサにチャージポンプ(昇圧してチャージ)しているのだろうか?エポキシ材で固められたICチップはコイルの誘導起電力から振り子位置を検出して適切に駆動(コイルに電流を流す)ための制御回路なのだろうか??と、とりあえず推測した。



駆動電子回路をちょっと詳しく調べる

この駆動回路に興味が出てきたので、ちょっと詳しく調査した。


で、調査解析した結果、駆動回路のコネクション(回路図)はこんな感じ。
ひだまりの民の回路図

調査前の予想は大はずれだった。
エポキシ材で固められたICチップ(IC1)でアクチュエータを駆動制御していると思っていたいたが、そうでは無く、IC1は、たんに振り子振幅抑制の働きをしているようだ。具体的には、太陽電池の電圧を監視して、コンデンサC1に蓄える電圧をスイッチング制御(PWM制御)している。つまり、このIC1の制御により首振り振幅を抑制し、明るすぎる(太陽電池出力過大時)でも、カタカタ振り過ぎることを抑制している。試しに、lこのIC1の機能を停止(つまりコンデンサC1のマイナス側端子を電池のマイナス(GND)端子に直結)させても、ちゃんと首振り動作を行なう。ただし、この場合、光が強いと、カタカタと振幅飽和してしまう。
ちなみに、IC1のスイッチング周期は概ね180msec程度で、振り子の動揺周期とは全く無関係である。

でわ、肝心の駆動制御はどうしているかと言うと、トランジスタQ1とQ2による非安定マルチバイブレータ回路で行なっている。しかしながら、首振り動作の周期(振動数)を、このマルチバイブレータの電気的振動周期(発振周波数)で行なっているのではない。首振り動作の周期(振動数)は、あくまでも、機械系の固有周期(固有振動数)で行なっている。ここが大きなポイントだ。

この非安定マルチバイブレータ回路の振動周期(CR時定数)は、おおよそ10sec程度であり、首振り動作(振り子)の物理系(機械系)固有振動周期は2sec程度であるから、全く異なる。

それでは、どうして、物理系固有振動周期に合わせて、うまく駆動制御しているかをもう少し詳しく、その動作を説明する。例えばQ2をオンにして、コイルに電流をし、振り子(首)を振らせる。次に、振り子が逆向きにコイルを通過する時にコイルに起電力を生じ電流が流れる(電圧を生じる)。その電流はC3を通じQ1をオンにする、つまりQ2をオフにする。そして、再び、振り子が、初めの駆動方向と同方向にコイルを通過した時(往復して戻って来た時)に、また、コイルに起電力を生じ、今度は、Q1をオフにし、つまりQ2をオンにして、コイルに駆動電流を送り込み振り子を加速させる。この繰り返し動作によって、物理系固有振動周期に同期させて、うまく駆動しているのである。つまり、このモードではコンデンサーC2、C3はパルス伝達用のカップリングコンデンサーとして機能していると言える。

でわ、ここで疑問なのは、この非安定マルチバイブレータ回路の振動周期は、どういう役割をしているのだろうか?ということである。実は、これはスターター(起動)のための役割をしている。例えば、暗い部屋に置かれていて、振り子が静止している状態から、部屋の照明が入り、太陽電池が起電し始めたとする。太陽電池の発電エネルギーでは、いきなりコイルを起動することは難しいので、コンデンサーC1をチャージする。そしてある程度の電圧以上にチャージされるとQ1とQ2が動作を開始しする。そしてQ2は、10秒程度経過後に、オンになり、コイルに駆動電流を送り込む。もし、ここで、駆動できなかったら、また10秒後に同じことを繰り返す。もし、駆動できたら(めでたく振り子運動を開始したら)上で述べた振り子の物理系固有振動周期に合わせての通常動作モードに入る。つまり、この非安定マルチバイブレータ回路の時定数10secというのは、十分に起動を開始させるたために、コンデンサC1にエネルギー(電荷)をチャージするのに必要な時間なのである。

●●
このように、いっけん中学の技術家庭科の教科書にでも出てきそうなシンプルな非安定マルチバイブレータ回路のようであるが極めて面白い応用回路なのである。この単純な回路で、起動モード(通常の非安定マルチバイブレータとして働く)と、コイルの起電圧を検出して、それに上手く同期させて振り子を駆動させる物理系固有振動駆動モードの2つの働きを合わせ持たせている。誰が考えたのかは知らないが、よく考えたものだと思う。

●●
上で述べたように、コイルL1は駆動用コイルとしての働きと振り子の位置検出センサとしての働きの2つの仕事を兼業している。言い方を変えると、1つのコイルでフレミング左手法則(駆動)と右手法則(検出)の2つの法則を用いている。また、回路も同様に、駆動と検出の2つの働きを簡単な1つの回路で兼業しているのだ。つまり、両刀使いのコイルと回路なのだ。


(備考1)
駆動用コイルL1は、細い線で、巻き数がとても多く、コイルの直流抵抗は1kΩ程度ある。

(備考2)
コンデンサC4は、初め、位相調整用と思ったが、そうではないようだ。たんなる異常発振(寄生発振)防止用のコンデンサーのようだ。これを取ると、異常発振が発生し、駆動しなくなる。3倍程度の容量に変えても問題なく動作する。



どうして、のほほん族は、こんなにゆっくり揺れるの?

もうひとつ根本的にちょっと不思議なことがる。それは、どうして、こんなにゆっくり揺れるのか?という点だ。上でも述べたように、電気的な振動周期で強制的に動かしているのではない。あくまでも振り子の固有振動数で自由に揺らしている。それを電気的に手助けしている感じの駆動方式だ。と言うことは物理振り子系の固有周期(振動数)に100%依存している。もし、この程度の大きさ(長さ)の単振り子だとすると。もっともっと速く、せわしなく揺れ、ぜんぜん癒し系玩具にならないはずだ。
でわ、どのような仕組みで、こんなにゆっくり揺れているのだろうか?
その答えは、重りは支点の下にある磁石と錘だけではなく、支点の上、つまり頭の重さも関係している。
アームの長さLの単振り子だと、その周期は重さには関係なく単に√Lに比例する。しかし、このひだまりの民の振り子は高校物理で習う単振り子ではなく剛体振り子だと考えなければならない。つまり慣性モーメントが大きく関与するのだ。この場合、支点を中心として回転した場合の剛体全体の重心を考えて、支点とその重心との距離をd、支点を中心に回転したときの慣性モーメントをImとすると、その剛体の動揺周期は√(Im/d)に比例する。
このひだまりの民では、慣性モーメントを大きく、そして特に、支点より上の重さ(頭の重さ)を利用することにより支点と重心との距離dを可能なだけ小さくするようにして振動周期を長くする工夫を凝らしているのである。
(ちなみに、dを小さくすると振動周期は長くなるが、安定性は小さくなる。そのトレードオフである。)



復元したよ

分解遊びも、とりあえず終了したので、ひだま君を復元した。
ちょっと内蔵が飛び出したスタイルになったけど・・
これは、何か思いついた時に、すぐ実験しやすいようにアクチュエータ部分と
電気回路部分を分離しておくのです。

内蔵が飛び出した状態でも、ご機嫌に首をユラユラさせるひだま君。


(ご注意)
ここでで調査解析したコネクションや動作説明は、あくまでも、趣味として行なったもので、その精度を保証するものではありません。予めご了承ください。


<関連情報サイト>
ソーラーでユラユラ頭を動かしているタカラトミーの「のほほん族」

 

 

追記・この首振りメカニズムのオリジナルはここらしい

この首振りメカニズム(および駆動回路)は元々は下記会社の会長さんが開発されたとの情報を頂きました。




投稿:2009/2/13

追記:2010/12/29

 

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