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使い捨てカメラ「写ルンです」の分解

近所のドンキホーテで、あの富士フイルムの「写ルンです」が398円で売っていたので買ってみた。
デジタルカメラの今の時代でもちゃんと需要があるんですねえ。
初期の「写ルンです」の比べると随分スタイリッシュなデザインになっている。
フラッシュ(ストロボ)付きでこの値段って凄いと思う。
写ルンですシンプルエース

このページの目次

写ルンですの分解を開始!
ちょっとフラッシュ(ストロボ)回路の基礎(動作原理)
写ルンですのフラッシュ(ストロボ)回路の調査(解析)




写ルンですの分解を開始!

ちょっと使ってみるとフラッシュの起動時間が昔のに比べるとかなり早くなっているのにびっくり。
知らぬ間に地味な進化を遂げていたのです。で、そのフラッシュ(ストロボ)回路に、とても興味が出たので
さっそく分解を始める。

簡単に開けることができた。全て嵌め込みによる結合で、ネジは使われていない。
さらに分解する。

この緑色の基板がフラッシュ(ストロボ)回路。
電池は単四アルカリ乾電池(組み込み機器専用電池と印字されている)


さらに、どんどん分解。
写るんですの分解写2

レンズASSY。レンズはプラスチックレンズ1枚。
シンプルだけど考えぬからたモノなのだろう。
写るんですのレンズ

シャッター機構。シャッター板は厚さ約0.8mmのプラスチック製。

機構部分は何だか良く分からないが凄そうだ。
よくもまあ、この値段でこんなに精巧に作れるもんだなぁと本当に感心してしまう。

これがフラッシュ(ストロボ)ユニット。
写るんですのフラッシュ回路基板1
ちなみにプリント基板に黒くペイントされている部位が昇圧整流後の高電圧部分、つまり
コンデンサーにより高電圧がフ保持されている部分、触ると感電する可能性のある部分のようだ。

基板の表(裏?)側。
写るんですのフラッシュ回路基板写真2
トランジスタ1石による昇圧回路。大きな黒い円筒状部品は電解コンデンサ。
このコンデンサーに電荷を蓄積させて、そのエネルギーでキセノンランプを発光させる。




ちょっとフラッシュ(ストロボ)回路の基礎(動作原理)


フラッシュ(ストロボ)回路のブロック図はこんな感じ。

ストロボ回路の構成図

電池の電圧(数ボルト)程度をいくらキセノン管に印加してもどうにもならない。
キセノン管を光らせるには数百ボルトの高い電圧が必要。
そこで電池の電圧をインバータ(一種の発振器)で交流に変換し、トランスの巻き数比を用いて昇圧する。その高電圧の交流(パルス)をダイオードで整流(直流に変換)しコンデンサーにどんどんチャージさせ300〜400V程度の直流電圧を作る。これをキセノン管に印加する。しかし、それだけではキセノン管は放電(発光)しない。放電を開始させるきっかけ(トリガ)が必要なのである。そのきっかけを作るのがトリガ回路。トリガ回路はシャッタースイッチを押した瞬間に極めて短い時間の高電圧(数千ボルト)インパルスを発生させ、そのパルスをキセノン管の近くの電極(反射板など)に印加し、その電気的刺激によりキセノン管は励起され、前述のコンデンサーに蓄えられた電荷をエネルギーとして(アーク)放電を開始する。このとき、急激に大きな電流が流れる(放電管のインピーダンスが急激に低下する)ので、一瞬にしてコンデンサーに蓄えられていた電荷を使い切って放電は終了する。その、放電が開始し一瞬にして終了するまでの間にキセノン管はコンデンサーに蓄えられていた電気エネルギーを一瞬の閃光と熱に変換する。これがフラッシュ(ストロボ)回路の仕組み。



写ルンですのフラッシュ(ストロボ)回路の調査(解析)

1.5vの単四乾電池で、ほんの数秒で起動できる(つまり上の電解コンデンサーに充電を完了できる)このシンプルなフラッシュ(ストロボ)回路に少し興味が出たので回路調査をする。
今時のカメラではCPUを搭載しているので最適に高速にコンデンサーにチャージする昇圧回路制御は簡単に出来るだろうけど、この安価な使い捨てカメラにはCPUなど搭載していない。しかも本体価格400円程度の商品の一部品なので超安価に作らなければならない。その辺の工夫に興味があるのだ。



図1:これが調査した写ルンですのフラッシュ(ストロボ)回路の回路図(コネクション)
写ルンですのフラッシュ(ストロボ)回路の回路図

「写ルンです」のフラッシュ(ストロボ)回路の特徴を理解するには下の回路(図2)を理解する必要がある。
図2:NPNトランジスタを用いた場合の普通に考えるとこうなるフラッシュ(ストロボ)回路

図2の回路の動作を簡単に説明する。
SW1の電源スイッチを入れるとトランジスタTR1と昇圧トランスT1のL1とL2により発振を開始する(いわゆるブロッキング発振)。そしてL3にはL1のとの巻き数比分昇圧された交流(パルス)電圧が発生し、ダイオードD1で整流(直流に変換)後、電解コンデンサC1にチャージする。
トランスT2はトリガ電圧を発生させるための昇圧トランスであり、シャッタースイッチと連動したスイッチSW2を押すとコンデンサC2にたまっていた電圧がトランスT2のL4に印加され、L5には一瞬の高電圧が発生する。その高電圧ノイズをキセノン管を囲む反射板に与えることによりキセノン管は励起され放電(発光)を開始する。そして、電解コンデンサC1にチャージされた電荷を使い切ると放電(発光)を終了する。

次に図1の「写ルンです」のフラッシュ(ストロボ)回路の特徴(図2の普通の回路との違い)を考察する。
●電源スイッチSW1が電池のラインではなく変なところに入っている。
 構造上の理由から?起動時に大電流(2A程度)が流れる電池ラインにスイッチを挿入したくないから?
●L2で発生する電圧をパイロットLEDの点灯にも用いている。
 これによりコンデンサC1の充電状態を表示可能となる。これはとてもよく考えられていると思う。
●コンデンサC1のマイナス端子をコイルL3に戻さずトランジスタTR1のベースに帰還している。
 これには大きな意味がある。
つまりL2〜R2〜R1〜TR1のベースへの帰還ループに加え、L3〜D1〜C1〜R1〜TR1のベースへの帰還が存在している。これによりC1の充電量に応じて昇圧が制御されている。つまりC1の充電量が小さい時にはTR1のON時間が大きく、急速に充電し、C1の充電量が十分に(パルス電圧とC1の充電電圧が等しく)なればC1に流れる電流は小さくなり、殆どL3〜D1〜C1〜R1〜TR1のベースへの帰還は働かなくなる。この状態ではL2〜R2〜R1〜TR1のベースへの帰還ループでのみ発振が継続され、R2を適性な値とすることにより昇圧トランスを非飽和状態で効率的に駆動することができ、小さな消費電流(電池電流)で電解コンデンサC1のチャージ電圧を保持することが出来る。
もっと平たく言うと、起動時は多少無駄に電池を消費してでも高速に起動(コンデンサC1をチャージ)し、チャージができれば、可能な限り少ない消費電力で待機させるということをマイコン制御に頼らずにやっている。

「写ルンです」には、この電気回路だけではなく、考えぬかれた機構や組立て構造等に色々な工夫やノウハウが盛り込まれている気配がプンプンする。それで400円程度の小売価格で売られている。ちょっと地味だけど凄い技術なのだと思う。

デジタルカメラの時代になったが、使い捨て銀塩カメラ「写ルンです」もガンバってほしい。
たまにはデジカメではなく「写ルンです」で撮って現像に出すというのもオツかもね・・

●注意(重要):
フラッシュ(ストロボ)回路では高電圧(300V以上)の部位があります。特に、電池を抜いてもコンデンサーにに高電圧がチャージせれ続けている設計となっています。ご注意ください。回路を触る前には必ずコンデンサC1をディスチャージするようにうしてください。(数100〜数KΩ程度の抵抗器を介してディスチャージすると火花が出ずにドキッとすることがありません)


●注意(重要):
ここで解析したフラッシュ(ストロボ)回路の回路図(図1)は、あくまで趣味レベルで解析したものです。
その内容は一切保証しません。また回路図(図1)の知的財産権は富士フイルム株式会社にあり、商用的な流用は出来ません。技術的好奇心を満たすことを目的としてのみご利用ください。


<参考リンク>
富士フイルム株式会社・写ルンです

 

 

サイト内参考記事

 


蛇足1

もし、この基板を高電圧実験用(コックク. ロフト・ウォルトン回路など)の発振源(パルス源)として用いたい場合は、ダイオードD1の手前(アノード側)から取り出せばよい。(D1のアノードと電解コンデンサC1のマイナス端子との間のパルス電圧を取り出す)。感電には要注意。

蛇足2

この「写ルンです」のフラッシュ(ストロボ)回路の昇圧用発振回路に用いてる素子は2sc6067という東芝製のバイポーラトランジスタです。形状はとても小さいですが、電池駆動のスイッチングに特化した優れたスイッチング特性を有しています。主な特性はVCEO=10V、Ic=5A、hFE=450〜700、VCE=0.3V(max)です。小型ながら高電流のスイッチングが可能です。(もちろんコレクタ損失は小さいので電力増幅用には向きません。あくまでも低電圧(電池駆動用)スイッチング用途向きです。)ちょっとしたスイッチング電源等の実験や工作遊びに使えそうです。

 


蛇足3

「写ルンです」で使用されているトランジスタは上記2sc6067以外にも2cs5765もあるようです。
共に東芝製の低電圧スイッチング用トランジスタです。

 


投稿:2008/2/20
誤記訂正及び追記:2008/5/15
訂正内容:(誤)2sc6017→2sc6067(正)
ご指摘頂きました「たかっちゃん」さんには深く感謝します。

 

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