大人の電子工作 <<
ペルチェ素子でマイプチ温度槽を作るぞ計画
温度槽とはなんぞや
温度槽(恒温槽またはチャンバとも言う)とは、その庫内を設定した一定温度に保つことの出来る試験装置。
なぜ、そんなもんが必要なのかと言うと、温度は電子回路や電子機器にとって極めて大きなパラメータの1つ。常温で動いたからといって高温時や低温時にちゃんと動作するとは限らない。だから、自分の作った電子回路の高温時や低温時の挙動、つまり温度特性(温特)を測定する必要があるのだ。
ヘヤードライヤーと冷却スプレーでも大雑把には温特を知る事はできるが、その温度を正確に知ることが出来ないし、なんかスマートでない。ドライヤーを当てすぎて電子部品を熱破壊したこともあるし。冷却スプレーでは結露した水分で回路の特性が変わり何を測定しているのか、わけ分からんようになったりする。
そこで、スマートに、温度を自由自在に設定できる温度槽が欲しくなるのだ。もちろん、そう言う試験装置は色々市販されているが、笑ってしまうほど高価だ。しかもデカいし。で、ここでは、できるだけ安く簡単にコンパクトなマイプチ温度槽の作製を試みるのだ。
マイプチ温度槽のコンセプトというか目標仕様
とりあえず手作り温度槽の目標仕様は下記のようにする。
●コンパクトで安価に作製できること。
●簡単に目標温度を設定できること。
●設定可能庫内温度範囲:-20℃〜85℃(室温0℃〜30℃において)
●温度誤差:±1℃以内
●庫内サイズ:標準レンガが1個入れば十分
●運転消費電力:500W以内
●製作費用:2万円以内(機能試作費用も含む)
ペルチェ素子による冷却方式を検討
温度槽は、結局、冷却機(冷蔵庫)とヒータを合体させて温度制御することで出来上がる。ヒータつまり発熱は比較的簡単だ、抵抗体に電流を流せば発熱する。その熱をファンで攪拌すればいい。
大変そうなのは冷却だ。市販の温度槽での冷却は冷蔵庫やエアコンと同様、コンプレッサーによるヒートポンプを利用している。でも、コンプレッサーって、ごっつい大げさだし、コンプレッサーやその配管を扱う技術など僕には全くない。となると、可能かつお手軽なのはペルチェ素子(ペルティエ素子/Peltier device)による電子冷却だ。つまり、まずは、ペルチェ冷凍庫(冷蔵庫)の基礎検討、実験から始めるのだ。
マイ温度槽のイメージ図
ちなみに、最終的なマイプチ温度槽のイメージ図(ブロック図)はこんな感じ。
●各ファンは制御せずフル回転。
●高温設定時の過熱は電熱ヒータで行なう。
●庫内温度(TP4)を設定(目標)温度に近づけるべくPID制御を行なう。
●加えて、ペルチェ素子各部の温度(TP1〜TP3)を検出して最大効率制御を行なう。
●DC12V電源は不要になったPC用スイッチング電源を転用する。
ペルチェ素子2段重ね方式
庫内を安定して-20℃に保とうとすると冷却フィン部は少なくとも-30℃に引っ張る熱移動能力が必要だろう。
ところがペルチェ素子に電流を流せば、いくらでも冷やせるというものではない、吸熱部と発熱部の間の最大温度差に限界があり、しかも発熱部はいつも外気温というわけにはいかず自己発熱により、どんどん素子温度が上昇する。これにより、現実的に得られる温度差は30〜40℃程度とされている。そうなると、目標冷却温度を満たすには1枚では難しい。よってペルチェ素子2枚重ね方式を検討する。
ペルチェ素子2枚重ね方式で考えなければならないのは、2枚の素子の電力配分だ。なぜならば、放熱側の素子(冷却側の素子の発熱面に重ねられた素子)は、移動させる熱量に加えて冷却側の素子の自己発熱量も加えて移動(吸収)させる必要があるからだ。だから効率的に駆動させるには、たんに電気的に直列や並列接続すればいいという訳ではない。そこで、重ね合わせ使用した場合の2つのペルチェ素子への注入電力P1とP2の最適な配分を考えてみた。
上記式8のようにシンプルな関係となる。効率α1、α2は、温度等によって変わる動的変数であるが、例えば、手持ちの素子(秋月で購入)のデータシートから求めると概ね0.53〜0.57程度である。そこでα1=α2=0.5を式8に代入するとP2≧3・P1となる。
つまり発熱側の素子PD2には、冷却側の素子PD1の3倍以上の電力を注入すればいいことになる。ペルチェ素子の抵抗値を一定だと考えると、電圧駆動の場合、√3=1.73倍以上の電圧を印加すればよい。
この関係式を満たさない場合、PD1の発熱量をPD2で吸収移動することが出来なくなり、PD1の発熱部の温度が上昇し、効率が極めて低下する。つまり、さらに冷やそうとPD1に幾ら電流を流しても逆に温度が上がってしまう。また無茶に流し過ぎると素子の自己発熱により破損する可能性がある。
とりあえず冷却機能を評価する試作機を作るのだ
熱設計でいつも思うことは、肝心なパラメータが不明確なことだ。とくに熱抵抗が分からん。例えば、熱結合部位の金属材料や熱伝導グリス材の熱伝導率のデータはあるが、実際の塗膜の厚みも分からないし、接合(密着)具合によっては熱抵抗は大幅に変わる。またヒートシンクの放熱力(つまり周囲に対する熱抵抗)もよく分からん。結局、不確定要因、分からんもんだらけで、ぜんぜんまともに計算できない。だから、考えるより実際に試作してみる。
ペルチェ冷却のポイントは、とにかく発熱部の放熱だ。つまり発熱部からヒートシンクそして周囲環境までの熱抵抗
を出来るだけ、数値なんか分からなくとも、小さく(つまり熱を伝え易く)することだ。
予算の関係上、秋月の安価なペルチェ素子2個と古いPCから取り外したCPU用ヒートシンクなどのありあわせの材料で組み上げる。簡単ペルチェ冷蔵庫(冷凍庫)の手作り遊びなのだ。
で、基本的な材料はこんなん。
なんと言ってもメインはペルチェ素子、秋月電子で通販購入(上右写真)した。
40x40mmの大きさのもので、規格上では最大吸熱量:71.1W 最大温度差:68℃の品物らしい。
価格は送料別で1個700円という安さ。ついでに1個400円のデジタル温度計も購入。
これ、すごい地味だけど、結構重要な部品。
アルミブロック。ペルチェ素子の発熱をヒートシンクに伝える熱伝導スペーサ。
断熱材(発泡スチロールの容器)と厚みを合わせる関係で必要なのだ。
容器なしで積み上げるとこんなイメージ。
下が冷却フィンで上が排熱用ヒートシンク。
上の写真では、下から上へ熱を吸い上げる。
これが断熱容器。発泡スチロール製の保冷ボックスを利用する。
以降の組立ては写真のような感じ。
秋月でついでに購入したデジタル温度計を蓋に取り付けた。なんとなく。
動作確認なのだ
いよいよ動作確認。制御回路は未だ作っていないので、各ペルチェ素子を夫々個別の実験用電源器で駆動。
排熱用ヒートシンク(冷却ファンフル回転)の排熱容量を80Wとして、上記各式を用いて各ペルチェ素子に与える電力を決める。やはり放熱(排熱)量がネックとなる。
とりあえずガラス容器に水道水を入れてと。ちゃんと凍るかな。
冷却フィンの温度(熱電対温度計で測定)は-11℃まで下がった。このとき庫内温度は-5℃。
う〜ん。とりあえずは、これが限界かな。
数時間後、氷が出来てた。
冷蔵庫と違いのんびり、じっくり凍らしたので綺麗な透明の氷だ。
食べてみると、美味しい。
電子冷却で作った氷は、とても美味しかった。
若干の改良
放熱部の熱抵抗低減(熱伝導効率アップ)のため全ての箇所の熱伝導グリスをシリコーングリスから高熱伝導銀ペーストに変更。パソコンショップで購したもの。熱伝導率は8.2W/m・kだから、前回使用の通常のシリコーングリスの10倍程度だ。
結果は、冷却フィン温度(熱電対温度計で測定)は-13℃、庫内温度は-7℃。
若干だけど改良でけた。今回の冷却機能確認用試作機ではこれが限界のようだ。
所感と今後
正直、今回の試作機では、目標の冷却機能に達しなかった。やはり、セコく流用したPCのCPU用の放熱ヒートシンクでは少々厳しい。実用的な安定的な冷却機能をえるには、数百wクラスのヒートシンクを用いて、2段のペルチェ素子モジュールを複数個並列駆動する必要があるのかも知れない。そうなると、基本コンセプトである安価(製作費用2万円以内)でコンパクトであることに反し、大掛かりなものになってしまう。ちょっと基本から考え直す必要がありそうだ。
もしかしたら、強力なコンプレッサ式小型冷凍ボックスの中古品をヤフオクあたりで破格値で落札して、それをベースに改造、つまり、コンプレッサーはフル駆動で、ヒータで温度制御させる。その方が現実的のような。そんな気が、今更ながら、ふと、してきたぞ。まあ、この計画は、ちょっと気長に進めようとおもう。
投稿:2010/1/9
その後
色々検討したら電子(ペルチェ式)冷却だけでギンギンに-20℃まで冷やし込むには、かなり大掛かりになってしまう。極小的な一部分を冷却するにはペルチェ冷却は有効だが、ある程度の容量をギンギンに冷やすには、ちょっと非力だ。(効率が低いので放熱部が大きくなりぜんぜんコンパクトではなくなる) で、結局、ベースとなる小型冷凍庫を購入しました。 もちろん従来のコンプレッサ式です。とりあえず動作させたら、1時間も掛からず-20℃近くまで冷却できた。 ペルチャ冷却に比べたら桁違いにパワフルな気配がします。
追記:2010/6/9